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大阪高等裁判所 昭和56年(行コ)21号 判決

大阪市東成区大今里南五丁目二-一〇

控訴人

服部マツ

奈良県北葛城郡香芝町関屋北二丁目二番五号

控訴人

服部卓司

奈良市西大寺国見町二丁目四-一八

控訴人

佐々木方乃

大阪市天王寺区舟橋町二-七

控訴人

大谷知子

右四名訴訟代理人弁護士

在間秀和

正木孝明

松本健男

桜井健雄

里見和夫

井上英昭

甲田通昭

田中泰雄

大阪市東成区東小橋二丁目一-七

被控訴人

東成税務署長

瀬野秀尚

右指定代理人

饒平名正也

太田吉美

生駒禎助

中村秀一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人ら

原判決中次の各加算税賦課決定処分の取消を求める控訴人らの請求を棄却した部分を取消す。

被控訴人が昭和五三年七月二〇日付でした控訴人らの昭和五〇年一一月一〇日相続開始にかかる相続税についての

(1)  控訴人服部マツに対する重加算税賦課決定処分(昭和五四年五月一四日付及び同五五年一〇月一六日付各加算税賦課決定処分により一部取消されたのちのもの)

(2)  控訴人服部卓司、同佐々木方乃及び同大谷知子に対する各過少申告加算税賦課決定処分(昭和五四年五月一四日付及び同五五年一〇月一六日付各加算税賦課決定処分により一部取消されたのちのもの)

を取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二主張、証拠

当事者双方の主張及び証拠の提出、援用、認否は次に付加するほかは原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  控訴人らの主張

1  控訴人服部マツ及びその余の控訴人らは被相続人広松が本件申告預金を有していたことを知らなかった。勿論、控訴人マツが原判決添付別紙二記載の本件預金15ないし69番、72ないし76番の切り替え手続に関与したこともない。控訴人マツは広松から北茂夫名義の預金証書とその届出印を貰い受け、これを管理していたのみである。

被相続人広松はその所有にかかる財産を当人には無断で家族名義にし、その名義人にそのことを知らせなかった。例えば当審における控訴人服部卓司本人尋問の結果により明らかになったことであるが、同控訴人は現在自分が居住している土地建物が自分の名義になっていること、その建物建設のために広松が同控訴人の名義で富士銀行今里支店から一〇〇〇万円の借入れをしたことすら知らなかったのである。右事実は、被相続人が家族に知らせず勝手に家族名義を使用して自己の資産を管理していたことを示している。このように、本件申告外預金も広松自らが管理していたものであって、控訴人らは外務員メモ(乙第五号証)が発見されるまではその存在すら知り得なかったのである。

なお、被相続人広松は昭和四八年一一月一五日から翌四九年三月一二日まで大阪赤十字病院に入院していたが、甲第四号証から明らかなとおり、右入院中に四七日も外出しているのであり、入院中であっても本件申告外預金に関する事務処理をすることができたのである。また、「森田」の印鑑についても、広松は昭和四九年一月一〇日に外出しているから、自分で同月一一日の改印をしたものと考えられる。

「森田」と彫られた印章が控訴人マツ名義の三和銀行貸金庫内にあったことは事実であるが、右貸金庫は実質は被相続人広松が借りていたものである。控訴人マツが貸金庫に赴く際は常に広松が同行して管理していたものであり、同控訴人は貸金庫内の収納物には一切関与していなかったのであるから、右印章の存在をもって同控訴人が本件申告外預金の管理に関与していたと推認することは許されない。

2  仮に控訴人マツが本件申告外預金の預け替え事務に関与したことがあったとしても、同控訴人は被相続人広松の生前において妻として本件申告外預金の管理に携わっていたわけではないから、本件重加算税賦課決定処分は過酷に失し違法である。

重加算税制度の立法趣旨は悪質な不正脱税者を制裁するために著しく重い税率を賦課することにあり、国税通則法六八条一項は、「納税者が国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したときは、・・・重加算税を課する。」なる文書を用い、別に七〇条五項において租税の不正行為について、「偽りその他不正の行為による」場合の更正決定の期間制限の特例を規定していることに鑑みると、重加算税が賦課されるのは故意による積極的な脱税行為を行った場合に限られると解すべきであり、本件の場合、控訴人マツは本件申告外預金につき別に隠ぺい、仮装等の積極的行為を行ってはいないから、本件重加算税賦課決定処分は違法である。

なお、従来の判例において隠ぺい、仮装と認められた事例は次のとおりであるが、これらは単に納税申告をしなかったというだけではなく、何らかの客観的な積極的行為に及んでいる場合であり、これらの事例に対比してみても、本件重加算税賦課決定処分は違法である。

(一) 土地譲渡にかかる所得を納税申告せず、かつ、その代金を架空名義の預金としている場合(昭和五〇年一二月一九日鹿児島地判)。

(二) 架空名義を用いて商品取引をし、その清算差益を架空名義の預金としている場合(昭和五〇年一〇月二八日静岡地判)。

(三) 譲渡所得に対する課税を免れるため日付を遡らせた売買契約書、取締役会議事録等を作成した場合(昭和四九年一〇月二三日大阪地判)。

(四) 架空仕入を計上して過少の申告をした場合(昭和四九年二月二八日東京地判)。

二  被控訴人の主張

1  控訴人らは、「森田」と彫られた印章が保管されていた三和銀行貸金庫は、実質は被相続人広松が借りていたものであり、これを使用する際は常に広松が同行し、実際は広松が管理し、控訴人マツは貸金庫内の収納物には一切関与していなかった旨主張するが、右主張は貸金庫使用のシステムを無視した議論である。すなわち、右銀行と控訴人マツとの間に交された貸金庫借用書兼代理人届(乙第一八号証)の約定では、収容品の出し入れは契約者本人か本人から予め銀行に届出られた代理人が行うことと明記されているのであるから、右貸金庫を開閉し、収容品の出し入れをなしうる者は控訴人マツか、代理人として届出られていた控訴人卓司をおいてほかにない。控訴人ら主張のように右貸金庫を広松が使用する目的であったとすれば、広松自身が契約者となっていたはずである。しかし、現実には控訴人マツが契約者本人、控訴人卓司が代理人として契約されているのであってこの事実は当初から右控訴人両名が使用する目的で右貸金庫を借りたことを示すものである。また、右貸金庫借用契約は広松が入院中の昭和四九年一月二六日に締結されているから、仮に控訴人ら主張のように右貸金庫を広松の使用に供するために借受けたものであるとすると、控訴人マツは入院中の広松から詳細な指示を受けて当時の三和銀行深江支店に赴き貸金庫借用契約を締結し、以後広松の指示で右貸金庫を使用管理していたことになる。すると、控訴人マツは同貸金庫内に保管されていた「森田」の印章を知っていたというべきであり、同控訴人が本件申告外預金の存在を知らないはずはない。

また、原審証人宇高稔の証言によると、同証人が「服部関係」の得意先係担当となり前任者から引継ぎを受けた際、預金の関係については家族の皆さんと話をするようにとは聞いたが具体的な預金の出し入れについて特に被相続人広松の指示を仰がなければならないとの注意は受けなかったというのであるから、本件申告外預金の存在が必ずしも広松だけの秘密に属するものではなく、昭和四八、九年当時広松と同居していた控訴人マツ、同卓司にも周知のことであったことを窺わせるに十分である。特に、控訴人マツは広松の妻として四〇年もの間同人に連れ添っていたものであること、本件申告外預金の金額が巨額であることをも併せ考えると、少くとも同控訴人は右預金の存在を知っていたと考えるのが自然である。

2  本件申告分預金と申告外預金とは両者ほぼ同じ状況で管理されてきていたこと、したがって控訴人マツが本件申告分預金の存在は知っていたが、申告外預金の存在は知らなかったというようなことがありえないことは、次の事実からも明らかである。

原判決添付別紙二大和銀行関係預金表番号46ないし50の本件申告外預金(正確には金銭信託。以下、金銭信託を預金とも表現し、右預金表番号のみで特定する)は既にしてあった仮名の定期預金を昭和四八年一一月二七日に金銭信託に預け替えたものであるが(本判決添付大和銀行関係預金表参照)、控訴人マツにおいても右同日にその直前の同月一九日に預け替えたばかりの金銭信託を解約して三万四一六七円の金銭信託と一五〇万円の金銭信託との二口に再び預け替えているところ、右一九日には番号15の本件申告分預金(金銭信託)と控訴人卓司の三口の預金(金銭信託)が同様に定期預金から金銭信託に預け替えられている。

また、控訴人マツが再び預け替えた右一五〇万円の預金の契約番号は二二一七六番(契約番号としては表面上二二一七六八番となっているが、末尾の「八」はチェック・デジイットのためのものであり、実際の契約番号はこれを除いた二二一七六番となる。以下契約番号はこのように解読)となっているが、この番号に継続して番号46ないし50の本件申告外預金の契約番号が二二一七七、二二一七八、二二一七九、二二一八〇、二二一八一と続いている。

これによると、控訴人マツの一五〇万円の預金は本件申告外預金番号46ないし50と契約番号上連続したものになっているから同時に預金(預け替え手続)されたものと認めることができ、またこの一五〇万円の預金の預け替え前の預金は本件申告分預金番号15及び控訴人卓司の三口の預金と同じ日に定期預金から金銭信託に預け替えられているから、これら預金は同時に預け替えの手続がされたものと認めることができるのであって、以上を併せ考えると本件申告外預金番号46ないし50は本件申告分預金と区別されず、同じ状況で管理されていたことは明らかである。

さらに、右各預金の発生時からの状況を遡ってみてみると、本件申告外預金番号46ないし50と申告分預金15、それに控訴人マツ及び同卓司の預金の預け替え前のものは、すべて自動継続定期預金であるが、自動継続期間は二年五か月から長いもので一〇年三か月にも及ぶものがあり、このことは右預金が放置の状態にあり、その間の管理をすべて預金先銀行の担当銀行員に一任していたことを示している。

右各事実と当時の控訴人マツの家庭状況を併せ考えると、右各預金の右預け替え手続、すなわち旧預金証書及び届出印の提出と新預金証書の受領は同控訴人の関与を抜きにしては考えられない。

また、右昭和四八年一一月二七日預け替えられた控訴人マツの預金と本件申告外預金番号46ないし50についての新預金証書は、原審証人宇高稔が被相続人広松の自宅へそのころ持参したというのであり、当時広松は入院中であったから、妻の控訴人マツに届けられたとみるほかないのである。

3  控訴人らは、被相続人広松は入院中四七日も外出していたから、入院中といえども本件申告外預金の預け替え手続等を自ら処理することができた旨主張する。しかし、広松が病院から外出した日と本件申告外預金の預け替え日とはほとんど合致していないから、この一事からみても右主張は理由がない。しかも、広松は病気治療中であったから、旧預金証書及び届出印を控訴人マツら家族に秘匿して銀行に持参し、また新預金証書と届出印を控訴人マツら家族に秘匿して保管することは極めて困難であるし、また家族に秘匿してそのようなことをしなければならない事情もなかったと考えられる。

さらに、銀行の事故簿(乙第一四号証)に登載された「森田」の印章についてみると、右印章は昭和四九年一月一一日に大和銀行鶴橋支店の窓口に持参されているが、右印章は控訴人マツ名義の三和銀行の貸金庫の使用システムからして、広松が単独で出し入れできないものであるし、また昭和四九年一月一一日には広松は病院から外出していないから、右印章は控訴人マツか同卓司が持参したものと思われる。

以上の諸点からみても、広松が入院中でも自ら単独で本件申告外預金の処理をしていた旨の主張が事実に反するものであることが明らかである。

4  控訴人マツは、被相続人広松その他の者の行為により相続財産、すなわち広松の財産の一部が隠ぺい仮装された状況にあるのを奇貨として、仮装された相続財産の一部を除外した内容虚偽の相続税申告書を被控訴人に提出したのであるから、同控訴人の右行為は脱税の意図の下に相続税を故意に免れるための不正な手段を用いたものというべきであり、国税通則法六八条一項にいう「事実を隠ぺいし、又は仮装」する行為に該当することは明白である。

控訴人マツは、重加算税を課するためには故意による積極的な行為の存在が必要である旨主張するが、そのように解すべき理由はないし、同控訴人は右のとおり相続税を免れるためことさらに相続財産の一部を隠ぺいした相続税申告書を提出したのであり、かかる行為は単なる消極的行為にとどまらず、むしろ積極的行為と評価することができるから、本件重加算税賦課処分に違法の点はない。

三  証拠

1  控訴人ら

(一) 甲第三号証、第四号証の一ないし二〇、第五号証を提出。

(二) 当審における控訴人服部卓司本人尋問の結果を援用。

(三) 乙第五四ないし第五六号証の各二の成立は認める。第六〇号証のうち控訴人服部卓司作成名義部分の成立は知らない。

その余の部分の成立は認める。その余の後記乙号各証の成立は知らない。

2  被控訴人

(一) 乙第一八号証、第一九号証の一ないし三、第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二号証、第二三号証の一、二、第二四号証、第二五号証の一、二、第二六号証、第二七号証の一、二、第二八ないし第三三号証、第三四号証の一、二、第三五、第三六号証、第三七号証の一ないし四、第三八号証、第三九号証の一ないし四、第四〇号証、第四一号証の一、二、第四二号証、第四三号証の一、二、第四四号証、第四五号証の一、二、第四六ないし第五三号証、第五四号証の一、二、第五五号証の一ないし三、第五六号証の一ないし三、第五七号証の一ないし四、第五八号証の一ないし四、第五九号証の一ないし三、第六〇号証を提出。

(二) 当審証人中村秀一の証言を援用。

(三) 甲第三号証の成立は認める。その余の前記甲号各証の成立は知らない。

理由

一  当裁判所は、当審における証拠調の結果を参酌しても、控訴人らの本訴請求を失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次に訂正、付加するほかは、原判決の理由と同一であるから、その記載を引用する。

二  原判決九枚目表二行目「乙」の次に「第一ないし第三号証、」を挿入し、一一枚目表一行目「乙第五番証」を「乙第五号証の二枚目以下」と改め、同枚目表五行目末尾に「また、右各預金はすべて記名式では仮名、無記名式では仮名の届印でなされているが、右外務員メモには本件申告分預金に属するものと申告外預金に属するものとがなんら区別されずに同一形式で記帳されており、右宇高は右メモの記帳に際し記帳の対象となった預金はすべて同一の権利主体に属するものと認識していたと認められる。」を付加し、同枚目表一〇行目「以前に」を「一月一六日」と改め、同行目「株式会社」の次に「(設立当初の商号は服部自転車株式会社)」を付加し、一二枚目二行目から四行目までを「(一一)大和銀行鶴橋支店の番号41、42、44、45の預金は本件申告分預金に属し、番号31ないし40と43の預金は本件申告外預金に属するが、すべて架空名義預金であるところ、右各預金とも昭和四八年一一月二四日従前の預金を預け替えたもので、契約番号もほとんど連続しているから、両預金間に区別はなく同一権利者の同一管理下にあったものと考えられる。」と改め、一二枚目表七行目「によると、」を「及び当審における控訴人服部卓司本人尋問の結果を総合すると、」と改め、同枚目表一二、一三行目「収入である」を「資産に起因する」と改め、同枚目裏一行目「(七)、(一一)」を「(四)ないし(一一)」と改め、同行目「などからすると、」から四行目「領して)」までを「に鑑みると、広松は正規の手続や帳簿処理を経由することなく、同社の資産を自己の資産に組入れ、自己の預金として」と改め、同裏五、六行目「(広松が会社代表者として原告服部マツに贈与したと」を「(前記2(四)、(五)、(一一)の各事実からすると、本件申告分預金のみが広松の預金であり、本件申告外預金が同社の簿外資産であると」と改め、同裏一一行目末尾に「これから控訴人らの修正申告にかかる債務控除額四一〇万六三二〇円を控除し、同加算贈与財産価額七八八万三〇六八円を加算して課税価額の合計を計算すると二億八九七九万五〇〇〇円となり、それから基礎控除をして相続税の総額を計算すると八七九万六三〇〇円となる。」を付加し、一三枚目表四行目「原告」から九行目までを「これら各人別価額から控訴人らの修正申告にかかる各人別債務控除額を控除し、同加算贈与財産価額を加算し、各人別課税価額を算出し、右課税価額の合計に対する各人別課税価額の割合で右相続税の総額をあん分し、控訴人マツにつき配遇者の税額軽減額を控除すると、」と改め、同枚目裏一二行目「で認められる」を「の各」と改める。

三  原判決理由二2掲記の各証拠、成立に争いのない乙第五四ないし第五六号証の各二、当審証人中村秀一の証言により真正に成立したものと認める乙第一九号証の一ないし三、第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二号証、第二三号証の一、二、第二四号証、第二五号証の一、二、第二六号証、第二七号証の一、二、第二八ないし第三三号証、第三四号証の一、二、第三五、第三六号証、第三七号証の一ないし四、第三八号証、第三九号証の一ないし四、第四〇号証、第四一号証の一、二、第四二号証、第四三号証の一、二、第四四号証、第四五号証の一、二、第四六ないし第五三号証、第五四号証の一、第五五号証の一、三、第五六号証の一、三、第五七号証の一ないし四、第五八号証の一ないし四、第五九号証の一ないし三、当裁判所の文書送付嘱託に基づいて送付されたものであり、その記載の体裁及び内容からみて原本が真正に成立したものと認める甲第四号証の一ないし二〇、当審証人中村秀一の証言によると、

1  被相続人広松は昭和四八年一一月一五日から同四九年三月一二日まで大阪赤十字病院に入院していたが、その入院中の同四八年一一月二一日には本件申告外預金に属する番号16ないし30の預金(金銭信託を預金とも表現する。以下同じ)が、同四八年一一月二四日には本件申告外預金に属する番号31ないし40及び43の預金と申告分預金に属する41、42、44、45の預金が同時に、同四八年一一月二七日には本件申告外預金に属する番号46ないし50の預金が、同四八年一二月七日には本件申告外預金に属する番号51ないし53の預金が、同四八年一二月一二日には本件申告外預金に属する番号54ないし60の預金が、同四八年一二月一八日には本件申告外預金に属する番号61ないし67の預金が、同四九年一月一四日には本件申告外預金に属する番号72ないし76の預金が、同四九年一月二五日には本件申告外預金に属する68、69の預金が、いずれも従来の預金を一旦払戻して預け替えられているが(ただし、銀行側の事務手続は帳簿上の操作)、右預け替えの手続が行われた八回のうち、被相続人広松が入院先の大阪赤十字病院から外出した日と合致するのは同四八年一二月七日、同月一八日、同四九年一月一四日の三回のみであること(右預け替えの手続には旧預金証書の提出とその届出印の提示が必要であるから、少くとも広松が入院先から外出していない右五回の預け替え手続には広松の指示を受けて控訴人マツが関与した可能性が甚だ大である)、また預け替え手続がなされた右各預金についてその新預金証書は当時の大和銀行鶴橋支店担当得意先係員宇高稔が遅滞なく広松の自宅に持参して交付していること(広松が入院中である以上、これを受領したのも控訴人マツであった可能性が極めて大きい)

申告外預金に属する番号64の預金の届出印鑑として使用された「森田」の印章は、控訴人マツが借用契約をし(控訴人卓司を代理人として届出)ていた三和銀行貸金庫内に保管されていたもので、右印章は昭和四九年一月一一日右預金の証書受領のため右鶴橋支店宇高の許に持参されているが、右一一日には広松は入院先から外出していないこと(したがって、右印鑑の取出と銀行への持参は広松の指示を受けて控訴人マツが行った可能性が一番大きい)、

2  本件申告外預金に属する番号46ないし50の預金(金銭信託)は従来あった仮名の定期預金を昭和四八年一一月二七日金銭信託に預け替えたものであるが(本判決添付大和銀行関係預金表参照)、右同日にその直前の同月一九日に同様に定期預金から預け替えられたばかりの控訴人マツ名義の金銭信託(契約番号二二一〇〇)が解約され三万四一六七円の金銭信託と一五〇万円の金銭信託との二口に再び預け替えられているところ、右一九日には番号15の本件申告分預金(金銭信託)と控訴人卓司名義の預金(金銭信託)が同様に定期預金から金銭信託に預け替えられていること、また、控訴人マツ名義の右一五〇万円の預金の契約番号は二二一七六番となっているが(預金証書上の契約番号としては表面上二二一七六八番となっているけれども、末尾の「八」はチェック・デジイットのためのものであるから、末尾の「八」を除いた部分が契約番号として順次付された番号となる)、この番号に続いて本件申告外預金に属する番号46ないし50の預金の契約番号が二二一七七、二二一七八、二二一七九、二二一八〇、二二一八一と続いており、右一五〇万円の預金と番号46ないし50の預金は同時に預け替えの手続をされていること(したがって右各預金は同じ状況で管理されていたと考えざるをえない)、

3  控訴人マツは被相続人広松の妻で、広松が昭和二二年頃これといった資本もなしに服部商店という商号で自転車の製造販売業を創業して以来、営業の面でもよく広松に協力し、零細な営業を現在の服部産業株式会社にまで育て上げてきた功労者で、広松死後は同人の跡を継いで服部産業株式会社の代表取締役に就任していること、

を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

四  以上挙示した各事実(当事者間争いのない事実・原審認定事実・当審認定事実)のすべてを総合し、なかんずく、大和銀行鶴橋支店得意先係作成のメモ(乙五号証の二枚目以下)の記載態様からみて本件申告外預金と申告分預金とが同一の権利主体に属するもののごとくに銀行員に取扱われていた点、広松の入院中の仮名預金の預け替え及び新預金証書の受領、「森田」印の持参及び貸金庫での保管に控訴人マツが関与していた蓋然性が極めて大である点、本件申告外預金に属する番号72ないし80の各預金は今でこそ大和銀行大阪西区支店、難波支店、市岡支店、尼崎北支店に分散して存在するが、もともとは同銀行鶴橋支店の控訴人マツ、同卓司、同方乃、同知子外一名名義の預金が広松の通称であった服部喜代次名義の預金に預け替えられ、その後その預金のうち本件申告分預金に属する番号15の預金に預け替えられた分以外が右各支店に仮名で預け替えられたものであること(原判決添付別紙三参照)、本件申告外預金に属する番号46ないし50の預金と控訴人マツ名義の元本一五〇万円の預金とはいずれも昭和四八年一一月二七日に預け替えられたものであること、番号41、42、44、45の預金は本件申告分預金に属し番号31ないし40と43の預金は申告外預金に属するが、すべて架空名義預金であるところ、右各預金とも昭和四八年一一月二四日従前の預金を預け替えたものであることなどよりして、本件申告分預金と申告外預金との間に密接な関連のあることが客観的に明白でこれらの預金は同一人もしくは同一人の指示により保持・管理されていたと推認できる点、控訴人マツは、広松の創業当初から妻として長年にわたり広松の事業に協力し、広松の死後は服部産業株式会社の代表取締役に就任し、広松の地位を実質上承継し、本件相続税申告に際し、無記名式で届出印は仮名の番号1ないし13の預金、記名式で名義は仮名の14、41、42、44、45の預金につきそれらを昭和五〇年四月ころ広松から贈与を受けたとして課税対象財産に含めて申告している点に考慮を払うと、被相続人広松は自己所有の財産の一部を原判決添付別紙二大和銀行関係預金表記載のとおり(服部喜代治名義分は除く)仮名又は無記名式(届出印は仮名)の預金(金銭信託)として仮装、隠ぺいし保有していたが、そのまま死亡し、控訴人らは広松の遺産を相続したが、広松の相続に伴う本件相続税申告(修正申告を含む。以下同じ)に際し、控訴人マツは広松の右遺産が右のように仮装、隠ぺいされた状態にあるのを認識しながら、この仮装、隠ぺいされた状態を利用して相続税を免れる目的をもって、本件申告外預金を相続財産から除外した内容虚偽の相続税申告書を提出したことを認めるに充分である。右認定に反する原審における控訴人マツ本人尋問の結果は、前掲各証拠に照らして採用することができない。

五  控訴人マツは、自らは本件申告外預金について隠ぺい、仮装等の積極的行為を行っていないから、本件重加算税賦課決定処分は違法である旨主張するが、国税通則法六八条一項を同控訴人主張のごとき趣旨に解すべき根拠に乏しく、むしろ、前認定のとおり、同控訴人は被相続人の生前の行為によりその遺産が仮装、隠ぺいされた状態にあるのを利用し、相続税を免れる意図をもって、ことさらに申告外預金を相続財産から除外した内容虚偽の相続税申告書を作成し、これを提出したものであり、同控訴人の右所為は国税通則法の右条項の「納税者が‥‥事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するというべきであるから、同控訴人の主張は採用できない。

六  以上の次第であるから、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今中道信 裁判官 仲江利政 裁判官 庵前重和)

大和銀行関係預金表(金銭信託分)

〈省略〉

(注)1. 「整理番号欄「15」とあるのは本件申告分預金であり、原審判決書別紙2・15番預金である。

2. 「整理番号欄空欄であるのは控訴人服部マツ、同服部卓司の契約になる本件外預金である。

3. 「整理番号欄「46・47・48・49・50」とあるのは本件申告外預金であり、原審判決書別紙2・46ないし50番預金である。

4. 「解約元利合計金額」欄から矢印を書いて「左の信託元本金額」欄を指しているのは定期預金(自動継続)から指定・特別金銭信託に切り替えられたことを示している。

5. 「契約経過」欄に矢印を書いているのは上記2記載の本件外預金の契約更改日に本件外預金の契約に連続して本件申告外預金が定期預金(自動継続)から切り替えられていることを示している。

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